人気ブログランキング | 話題のタグを見る
死を恐れる
ここしばらく、背中が痛い。
背骨と右の肩甲骨のあいだ。首筋から抜けるように痛む。レントゲンを撮ってもらい、胸部に特に心配するような異変は見つからなかったから、特に心配するようなものではない、と思う。
けれど、ひかない痛みに不安になる。飛躍するようだけれど、死に至るものだったらどうしよう、とか。それは、去年の夏、父が癌であることがわかる直前、よく背中が痛いと言っていたから、つい重ねてしまうのだろう。

死を思うとき、死そのものを私は恐れていない、と思う。
怖いのは、死に至るその過程。そして、残していくもの。

例えば、すっと眠るように死に至るのなら、人はそれほど死を恐れないのではないかと思う。
それは、次の世界への扉を開けるようなもの。
けれど、実際には、その扉の前に過程がある。痛みや、苦しみや、不安。そこからくる恐怖。閉ざされたこの世界での未来。それが怖い。下世話ではあるけれど、病死である場合、そこに至るまでにかかってしまうお金のことや、姿が醜くなっていくことにも不安を覚える。
それから、残していく人たち。それからのち、彼らはどうするんだろう、という気がかり。

母と電話で話をした。
「目立った異変はないみたいなんだけどさぁ。とにかく様子を見てみて、良くならない様ならCTとか撮ってみましょうって言ってた。少なくとも、一応は道筋があるから何が何だかわからないまま、あれよあれよと悪くなっていく、みたいなことにはならないんじゃない?」
「やだよう、お父さんの次にあんたとか、やめてよね。母さんだけ、おいてかないで。」

お互いに軽口を叩いたが、それは本音だろう、と思った。

# by sora_051 | 2005-08-09 05:07 | 日々徒然
雷雨、蝉、花火
学生の頃、夏になると貸別荘を借りて伊豆の海に行った。
10人前後で車に分乗して、大騒ぎしながら。

大学4年のときは、南伊豆に借りた。就職活動が終わったばかりの夏。最後の夏休み。
長いドライブのあと海で一泳ぎして、別荘に向かう。雲が見る見る間に立ち込めて、
夕立が降った。雨の匂い。雷の音。

3階建ての別荘だった。1階にお風呂とトイレ。そして何故か会議室。
2階がキッチンとダイニング。和室。3階はトイレと和室。十分な広さ。
エアコンがコイン式だった。100円玉で1時間稼動する。
男の子たちが食事の準備をしているあいだ、女友達と長々と風呂に入った。窓が雷の光
を受けて、時折光る。雨の音がまた、強くなる。

出来上がった食事を盛り付けた頃、大きな音がして部屋が真っ暗になった。
「停電!」叫んだ頃には元に戻った。
全員がお腹いっぱいになり、お酒を飲み始めた頃には雨は上がっていた。
心置きなく酔うために後片付けだけしよう、と誰かが言い出し、水道の蛇口をひねると
水が出ない。別の階の蛇口をひねっても同じことだった。

More

# by sora_051 | 2005-07-28 10:36 | いつかの景色
銭湯
銭湯という空間が嫌いじゃない。
白抜きで屋号の書かれたのれんや、そびえたつ煙突。回り続ける扇風機とその下で涼むおばちゃんたち。美しく重ねられた洗面器。磨かれた、けれど少しサビのういた蛇口や白いタイルの目地に心惹かれる。そして熱い湯。

過去、最も頻繁に銭湯に通ったのは、社会人2年目の頃だろう。仕事で参画していたプロジェクトが大詰めを迎え、8月から10月は特に忙しかった。会社に行って、泊まって、夕方帰って、また会社に行って・・・体力尽きたら休んで、みたいな生活。23時に始まる毎日の進捗ミーティングが終わってから、夏場で汗を流したいものだから、同じプロジェクトの方々と、しょっちゅう走って(0時過ぎには閉まるから)は銭湯へ行った。
常連のおばちゃんたちに声をかけられる。
「姐さんたち、最近よく見かけるけれど近くの人?何してる人?」
「あー、近くのビルで働いてるんですけど、最近仕事で泊り込むことが多くて。」と答えると、一様にうなずくおばちゃんたち。
「前にも忙しくて言うて来てる人いたわー。あれ?コンピューターとかのん?」
「そうです。」
帰り(って言っても会社へだけど)にコンビニエンスストアで夜食やらアイスやら買って、馬鹿な話をしつつ歩きながら、新宿の高層ビル群を見上げた、そんな夏の夜だった。

旅先で銭湯に寄るのも結構好き。京都でぶらりと銭湯に寄ったとき、おばちゃんが厳めしい顔でずっとこっちをみていて、何だか嫌だなあ、なんて思ってたら、
「姐ちゃん、それかしてみ!」
と怖い顔のまま体を洗う私の手ぬぐいを奪い取り、怖い顔のまま背中を洗ってくれた。不器用なやっちゃなあ、と思って見てたに違いない。怖かったけれど、いい人だった。
金沢の、昔の花街にある銭湯に、観光ついでに立ち寄ったときも似たような体験をした。

スーパー銭湯の豪華な設備もよいし、温泉宿の湯もよいけれど。
街中の小さな銭湯の、その温もりもやっぱり捨てがたい、と思う。

# by sora_051 | 2005-07-17 19:20 | いつかの景色
時を刻まない時計
時計をみつめながら何度目かのため息をついた。捨てようかどうしようか迷い続けている。
くまのプーさんが端の欠けた透明なプラスチックの向こうから笑う。

捨てるのが惜しいほど高いものじゃない。変わりが見つからないほど珍しいものじゃない。むしろ100円ショップで売ってそうな、おまけでついてきそうな安物。縦横5cmほど、厚み2cmほどのありふれた小さな時計。プーさんに思い入れがあるわけじゃない。たまたまプーさんが描いてあるだけで、私にとってはドナルド・ダックでもドラえもんでもキティちゃんでも無地でも同じこと。

手に入れた経緯に思い入れがあるわけでもない。
学生の頃、アルバイトの休み時間にゲームセンターのUFOキャッチャーで男友達が取り、たまたま一緒にいた私に「やるよ」ってくれただけのもの。頑なに固辞する必要もなかったので受け取っただけ。そのまま、10年近くも手元にある。

More

# by sora_051 | 2005-07-17 03:07 | 旅の空の下
タンカー
タンカーに乗ったことがある。父が航海士だったから。

会社内での立場が上になるにつれ、陸上で勤務することが多くなったが、私が子供の頃は、父も若くて船上にいることが多く、不在がちだった。
父に会いに、母に連れられて日本の港に停泊しているタンカーに行き、そこに泊まった。

タンカーを訪れるのは好きだった。乗り込むときの、あの頼りなくてちょっとこわい、隙間から海が見えてしまう階段や、吊るされた救命ボートや、黒地に白いラインの入った大きな煙突や、丸い窓や、下が整理棚になっていて普通より高い船室のベッドや、やたら広いグリーンのデッキや、よくわからない計器類が並んでいる機関室も好きだったし、その頃の私には珍しいユニットバスや重油の匂いも好きだった。それに、珍しい外国製のアイスクリームを食べたり、食堂にある漫画を読むことができた。

神戸から東京まで、タンカーに乗って旅をしたことがある。いくつかの港に寄りながらだったので、2泊か3泊かした。タンカーが沖に出るまで、何艘かの小さな船が引っ張るのを、丸い窓から見ていた。あまりにも幼かったので、それくらいしか覚えていないけれど。初めて東京タワーを見たのもこのときだった。紐を引っ張ると手足がカタカタ動くミッキーマウスのおもちゃを買ってもらい、カタカタと鳴らしながら東京タワーの脇を歩いた。

船の行く先を母に教えてもらい、地図帳でその国を探した。
白いペンキで塗られた、たまにみる父の属する世界が好きだった。

# by sora_051 | 2005-07-15 18:42 | いつかの景色


違う側面
by sora_051
カテゴリ
全体
日々徒然
いつかの景色
誰かの肖像
旅の空の下
フォロー中のブログ
明けない夜明けを待つあいだ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧