かーくんの名前はカズヤという。どういう字を書くのか私は知らない。 かーくんは4歳年上の従兄だ。子供の頃の夏休み、おばあちゃんの家に行くといつも一緒に 遊んだ。3人兄弟の1番上で、私の1つ年上のユウジと1つ年下のナオコのお兄ちゃん。 あの田舎の、萱葺き屋根の家の前で、スイカ割りをしたり花火をしたり、田んぼの用水路で ザリガニを採ったり、虫を捕まえたり、縁側でゲームをしたり、トウモロコシにかじりついたり、 海に行ったりした。かーくんは何でも出来たし格好良かった。 皆で海に行ったときのこと。お母さんとタケシと私の3人で、浜から離れて泳いでいた。 そこはもう、浮き輪から離れてしまうと足が届かないほど深くて、私はびくびくしながら浮き輪に つかまっていた。かーくんが泳いできて、シュノーケルをくわえて潜り、手に透明なぐにゃりと したものを持って浮かんできた。 「なあに?それ。」「クラゲ。おばさんの足についとったよ。」 お母さんが「やだあー!」と声をあげ、私たちは笑った。 一番、鮮明な記憶。 私が中学生の頃、一度だけ東京の家にかーくんが一人で遊びに来たことがある。かーくんは 高校を卒業して、大学には行かずに働き始めていた。私はなんだか恥ずかしくてほとんど 口もきかず、かーくんはタケシと2人で楽しそうにTVゲームで遊んで帰っていった。 それが、彼に会った最後だった。 そしてもう、きっと会うこともない。 かーくんと同い歳の従兄のともくんと私は、今でも会うとこっそりかーくんの話をする。 今頃、どこで何をしてるんだろうね――。 幼い頃に、私が一番憧れた年上の従兄を、時々懐かしく思い出す。 #
by sora_051
| 2005-07-13 02:24
| 誰かの肖像
既婚男性と恋愛をしている友人がいる。いわゆる、不倫。 それ自体は珍しいことではないかもしれないけれど、彼女から打ち明けられたとき、自分の身近で普通に起こっていることに少々驚いたのは確か。そして、不思議に思ったのも確か。 初めは「別れようと思えばすぐに別れられるし。」とあっけらかんとしていた彼女。 結婚が全てではないけれど、未来に希望の持てない恋愛は続かないのでは、とも思う。どうしてもどうしても、その人以外に考えられないほど相手が好きで、その相手がたまたま結婚していたのだ、というならまだわかる。けれど、すぐ別れられる程度に気持ちがないなら、なぜわざわざ、と思った。不倫の恋を否定するわけではないけれど、不毛である。よほどの理由がない限り、恋人を誰かとシェアすることなんて私は考えられない。 しかしその恋は2年以上続いている。何度も喧嘩をし、何度も別れ話をし、けれど結局一緒にいる2人。私は近くでそれを見続けて、もうやめたら?と言い、けれど深まっていく彼女の想いをみているうちに、何も言わなくなった。言えなくなった。 久しぶりに会った彼女は、とても疲れているように、見えた。 婚外恋愛をしている不安は、1人で生活を続ける覚悟をしなければならない不安に直結している。我が侭に自分のことだけを考えてればよかった頃に比べて、親の老いを感じる年齢に差し掛かった私たちは、その決断も容易ではない。意識が変わり、別れなければ、と真剣に考え始めた今、改めて気づいた想いの大きさに、彼女は苦しんでいた。 「普通に結婚して、幸せになりたいと私が思っている以上、別れるしかない、思うのだけど、 苦しくて、出来なくて。簡単に別れられる、って思ってた頃が懐かしいよ。」 力なく、笑った。 理詰めで考えた結果として人を愛するわけじゃないのと同様に、考えて想いを止められるわけでもない。痛々しい彼女を見ていると、どちらがよいとも言えずにただ、聞くことしかできない。 深夜にふと、彼女のことを考えたりする。 私たちは、なんてままならない、不自由な心を持っているのだろう。 #
by sora_051
| 2005-07-12 17:43
| 日々徒然
多摩川の花火大会にはよく行った。世田谷線、あの緑色の2両編成の、床が板張りの列車で三軒茶屋まで行き、田園都市線に乗り換えて。 高校1年生のとき、仲良くしていたコたちと皆で行った花火大会が、いちばん鮮明で懐かしい記憶。祖母が繕ってくれた藍色の浴衣を母に着せてもらい、待ち合わせの駅に急いだ。同じように浴衣を着た女友達が手を振る。2人できゃあきゃあいいながら、浴衣を褒め合い、地下鉄の改札に続く階段を駆け下りた。 More #
by sora_051
| 2005-07-12 16:43
| いつかの景色
「七夕の日、フェリー乗りに行こうと思うんだ。まだ予約とかしてないんだけど」 私の両親の恋は、大阪から松山、そして大分に向かうフェリーの上で始まった。 母が大阪の会社で働いていた頃のこと。その30数年前の七夕の日、同じ会社の仲間たちとの旅行で松山に向かっていた。その同じ船に、仕事で大分に向かう父が乗り合わせていたのだった。 母にとっては仲の良い女友達のお兄さんだった父。顔は知っていたけれど、親しく付き合ったりはしていなかったらしい。けれどその七夕の日、偶然にもフェリーの上で出会い、天の川を見ながら一晩中、2人でいろいろな話をした。そして恋は始まった。 一昨年の七夕の日の朝、車の中で交わした会話を思い出す。 「今日は七夕かぁ」 「もう、30年も前だよ」 「○○(私)が今年28になるから、31年前か」 More #
by sora_051
| 2005-07-09 15:27
| 日々徒然
最近、妙にくっきりとした、鮮やかな夢を見る。 2、3日前に見た夢では私は学生だった。その学校に通う人々は、皆見知った人々だった。子供だった頃、高校生の頃や予備校に通っていた頃、大学生だった頃、少し前、その時代その時代私が頼りにしていた友人たちや、旅先で出会った印象深い人がいた。 なぜだか私はひどく落ち込んでいて、体調も悪くて授業をさぼっていた。その授業に出ていた亮子が来て、「だめじゃん」と笑い、手紙をくれた。そのくっきりとした楽しげな彼女の笑顔。廊下では本を抱えた杏恵とすれ違った。走りこんできてぶつかりそうになったのはかつてアルバイト先が一緒だった女の子。混み合った食堂で空席を見つけて座り、明と他愛もない話をした。スカもいた。相変わらずおじさんくさい妙な歩き方で「よお」と手をあげた。広くて古い教室の中、西日を受けながら圭や健太郎や三保とくすくす笑いをしながら話した。克哉にドリンクを奢ってもらった。売り子の女の子は西武デパートの紅茶売り場の売り子さんで、何度か顔をあわせたことのある女の子だった。 ざわめきや、髪に光が当たる具合や、友人の声の反響する様子や、それに耳をそばだて、見惚れる私がいた。幸福で懐かしく、ちょっぴり不吉な気もする夢に、不安も感じた。 More #
by sora_051
| 2005-06-17 16:03
| 日々徒然
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